CRSと海外口座の情報交換|日本居住者が知るべき制度

最終更新 (日本時間) 執筆 KSKパートナーズ株式会社

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CRS(共通報告基準)とは何か

CRS(Common Reporting Standard:共通報告基準)は、OECD(経済協力開発機構)が主導する国際的な税務情報交換の枠組みです。各国・地域の金融機関が口座保有者の税務上の居住地国を確認し、その情報を自国の税務当局へ報告します。報告を受けた税務当局は、他国の税務当局との間で情報を自動的に交換します。この仕組みにより、日本居住者が海外に保有する口座の残高・利子・配当などの情報が日本の国税庁(NTA)に届きます。

CRSは2014年にOECDが基準を策定し、各国・地域が順次実施しています。香港は2017年1月1日から、マレーシアおよびシンガポールは2018年から情報交換を開始しています。日本も参加国であり、日本に居住する外国居住者が保有する日本の口座情報を、相手国の税務当局に自動的に提供する義務を負います。

CRSの情報交換の仕組み

CRSに基づく情報交換の流れは以下のとおりです。まず、海外の金融機関が口座保有者に対してCRS自己申告書(Self-Certification Form)の提出を求め、税務上の居住地国と納税者番号を確認します。次に、金融機関は口座保有者の情報(口座残高・利子収入・配当収入・売却代金等)を自国の税務当局へ報告します。各国の税務当局は報告を受けた情報を、相手国との税務情報交換協定(TIEA)または多国間情報交換協定(MCAA)に基づいて自動交換します。

交換される情報の例には、口座残高、利子・配当などの受動的所得、金融資産の売却代金が含まれます。法人名義の口座であっても、実質的支配者(Beneficial Owner)が日本居住者である場合は、その個人の情報も報告対象となります。令和6年度(2024年度)の改正後、2026年1月1日以後に開設される新規口座については改正後の制度が適用されます。

日本居住者に関係する参加国・地域

日本との間でCRSに基づく情報交換を行っている主な国・地域には、香港(2017年〜)、マレーシア(2018年〜)、シンガポール(2018年〜)などが含まれます。ただし、アメリカはCRSに参加しておらず、独自のFATCA(外国口座税務コンプライアンス法)に基づく制度が別途存在します。口座を開設する国がCRS参加国かどうかは、OECDの公表リストや国税庁のウェブサイトで確認できます。

令和6事務年度(2024年度)における日本のCRS情報交換件数は約275万件とされています。海外口座の保有状況が税務当局に把握される可能性が高まっている現状において、適切な届出と申告の準備を進めることが求められます。

必要書類と口座開設時の手続き

海外の金融機関に口座を開設する際、CRS対応として必要となる主な手続きは以下のとおりです。

手続き 内容・注意点
CRS自己申告書(Self-Certification)の提出 税務居住地国・納税者番号を正確に申告する義務がある
税務居住地国の申告 日本居住者は「Japan」と申告。複数の国に税務居住地がある場合は全て申告
納税者番号(TIN)の申告 個人はマイナンバー、法人は法人番号を記入する
変更時の届出 税務居住地が変わった場合は速やかに銀行へ更新版を提出する義務がある

国外財産調書の提出義務

日本居住者は、毎年12月31日時点で国外財産の合計額が5,000万円を超える場合、翌年6月30日までに国外財産調書を所轄税務署に提出しなければなりません。国外財産には、海外預金残高・海外不動産・海外証券・外国法人への出資持分など、国外に所在するすべての財産が含まれます。

国外財産調書の提出義務は、CRSによって税務当局が把握している情報と照合されます。調書を提出していない場合や虚偽の記載があった場合は、過少申告加算税の軽減措置が適用されない場合や、ペナルティが科される場合があります。正確な情報に基づいて申告することが求められます。

財産債務調書と国外送金等調書

所得2,000万円超かつ財産3億円以上(または財産10億円以上)に該当する日本居住者は、財産債務調書の提出も必要です。財産債務調書には国内外の財産と負債を記載します。提出期限は国外財産調書と同じく翌年6月30日です。

また、金融機関を通じた100万円超の海外送金は、金融機関が国外送金等調書として税務当局へ報告します。この報告は送金者ではなく金融機関が行うものですが、送金の記録が税務当局に残ることを意識した資金管理が求められます。

外国子会社合算税制との関係

CRSによって海外口座の情報が税務当局に共有される一方、日本の外国子会社合算税制(タックスヘイブン対策税制)は、日本の株主が支配する外国法人の利益を日本側で合算課税する仕組みです。外国関係会社の租税負担割合が20%未満の場合、一定の条件のもとで日本の株主の所得に合算されます。令和5年度改正後、特定外国関係会社の適用免除の閾値は27%に変更されています。

海外口座を通じて外国法人が所得を積み上げている場合、CRSによる情報共有と外国子会社合算税制の両方の観点から検討が必要です。海外口座の開設・維持にあたっては、日本の税法上の影響を国際税務に詳しい税理士に相談することをお勧めします。

CRS対応における実務上の注意点

CRS自己申告書に記載した情報が事実と異なる場合(意図的な虚偽申告)は、各国の法令に基づく制裁の対象となります。申告書の提出を拒否することも、各国の税務コンプライアンス規定で認められていません。金融機関はCRS申告書を得られなかった口座を「非協力的な口座保有者」として扱い、最高税率の源泉徴収を適用する場合があります。

口座開設後に税務居住地が変わった場合(例:海外移住・長期滞在による居住地変更)は、速やかに銀行へ更新版の自己申告書を提出する義務があります。更新を怠ると旧居住地の税務当局に情報が送られ続ける事態になります。CRS対応は口座開設時だけでなく、保有期間中も継続して管理することが求められます。

海外口座の適切な活用と税務コンプライアンス

CRSの情報交換が広がったことで、海外口座の保有状況が税務当局に把握されやすくなっています。これは海外口座の保有を否定するものではなく、正当な事業目的に基づいて適切に申告・届出を行うことで、海外口座は合法的に活用できます。海外口座の開設は、事業の取引先や拠点の所在地に対応した事業上の必要性に応じて検討することが基本となります。

海外口座を通じた受取・送金の履歴は、国外財産調書や確定申告の際に必要となります。口座の利子・配当・売却益は、日本の所得税の課税対象となる場合があります。取引履歴・残高証明書・年次報告書を定期的に保管しておくことが、申告時の対応を円滑にします。申告内容の判断については、国際税務を専門とする税理士への相談を通じて行うことをお勧めします。

FATCAとの違い

CRSはOECDが策定したグローバルな枠組みですが、アメリカはCRSに参加しておらず、独自のFATCA(Foreign Account Tax Compliance Act)に基づいて情報収集を行っています。FATCAは外国の金融機関に対し、米国人・米国法人が保有する口座の情報をアメリカの内国歳入庁(IRS)に報告することを求めます。FATCAとCRSは目的が似ていますが別の制度であり、米国籍を持つ方や米国に関係する法人が口座を開設する場合は、FATCAの遵守義務についても確認が必要です。

日本居住者がアメリカの金融機関に口座を保有する場合はFATCAの直接的な対象とはなりませんが、アメリカ在住の日本人や二重国籍者が口座を保有する場合には別の判断が必要です。CRS・FATCA双方の適用関係については、国際税務の専門家に個別に相談することをお勧めします。

口座の維持と情報の最新化

CRSの枠組みの下では、口座保有者の情報が最新の状態に保たれていることが求められます。住所・税務居住地・国籍に変更があった場合は、銀行へ速やかに通知し自己申告書を更新します。年次の残高報告・取引履歴の保管を習慣にすることで、国外財産調書の作成や確定申告の際に必要な情報をすぐに参照できます。

相談の案内

当社では海外法人設立と銀行口座開設を、各国で認可を受けた現地事業者と連携して支援しています。口座開設の支援内容は 海外銀行口座開設の支援 ページに掲載しています。CRS対応を含む届出義務については税理士への相談を推奨します。無料相談は お問い合わせフォーム からお申し込みください。

関連記事:海外法人口座の開設手順と銀行審査の基本 / 海外個人口座の開設と日本の届出義務 / 海外口座開設の審査で銀行が確認する事項

出典

  • OECD「Common Reporting Standard (CRS)」(確認日 2026-10-17)https://www.oecd.org/tax/automatic-exchange/common-reporting-standard/
  • 国税庁「共通報告基準(CRS)に基づく自動的情報交換」(確認日 2026-10-17)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/kokusai/crs/index.htm
  • 国税庁「No.7456 国外財産調書の提出義務」(確認日 2026-10-17)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hotei/7456.htm
  • IRD「Common Reporting Standard」(確認日 2026-10-17)https://www.ird.gov.hk/eng/tax/dta_crs.htm
  • HASiL「Common Reporting Standard」(確認日 2026-10-17)https://www.hasil.gov.my/en/antarabangsa/automatic-exchange-of-information-aeoi/common-reporting-standard-crs/

この記事は、公的機関が公開している情報をもとに、制度の一般的な内容を説明したものです。個別の税務の判断は税理士が行います。制度は改正されることがあるため、手続きの前に最新の情報をご確認ください。

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