
マレーシアで就労・経営活動を行うには、出入国管理局の出張所(ESD:Expatriate Services Division)が管轄する就労許可(Employment Pass:EP)が必要です。EPは区分によって最低月給・最長在留期間・後継計画の要件が異なります。2026年6月1日の改訂により、区分ごとの最低月給が引き上げられました。法人の設立段階から払込資本金と採用計画を整合させることが申請成功の前提条件です。
Employment Pass の区分と要件(2026年6月1日改訂版)
| 区分 | 最低基本月給 | 最長在留期間 | 後継計画の要否 |
|---|---|---|---|
| Category I | RM20,000 以上 | 最長10年 | 不要 |
| Category II | RM10,000〜RM19,999 | 最長10年 | 2027年1月1日以降は必要 |
| Category III | RM5,000〜RM9,999 | 最長5年 | 2027年1月1日以降は必要 |
| Category III(製造業) | RM7,000〜RM9,999 | 最長5年 | 2027年1月1日以降は必要 |
上記の最低月給はすべて基本給のみの金額であり、住宅手当・交通費などの手当は含みません。改訂は2026年6月1日以降に提出された新規および更新申請に適用されます。2025年5月31日まで有効な旧基準では、Category I がRM10,000以上、Category II がRM5,000〜RM9,999、Category III がRM5,000未満でした。
法人の払込資本金要件
MIDA(マレーシア投資開発庁)を経由してEPを申請する場合、会社の資本構成に応じた最低払込資本金が求められます。
| 会社の資本構成 | 最低払込資本金 |
|---|---|
| 100%マレーシア資本 | RM250,000 |
| 外資との合弁(JV) | RM350,000 |
| 100%外資 | RM500,000 |
| キーポスト(Key Post)申請 | 外資払込資本金 RM1,000,000 以上 |
日本人が100%出資するマレーシア法人(SDN BHD)でEPを申請する場合、最低払込資本金はRM500,000です。キーポスト(役員・管理職)については外資払込資本金RM1,000,000以上が必要です。これらは法令上の最低資本金(法定最低額なし)とは別に、EP申請のために必要な実務上の要件です。
申請手続きの流れ
マレーシアのEP申請はオンラインシステム「ESD電子申請ポータル」で行います。一般的な手続きの流れは以下のとおりです。
- 会社の設立と払込資本金の確認
- ESDポータルへの企業登録(Company Registration)
- 申請者(外国人従業員)の情報入力と必要書類の添付
- ESDによる審査(通常数週間〜数ヶ月)
- 承認通知の受領と入国・証明書の取得
必要書類には、申請者の旅券・学歴証明・職歴証明・雇用契約書・会社の登記書類・財務諸表などが含まれます。書類の不備があると審査が長期化することがあるため、事前に認可代理人(Licensed Agent)への確認をお勧めします。
Dependant Pass(帯同者ビザ)
EP保有者(月給RM5,000超の場合)は配偶者・18歳未満の子・養子・両親を帯同者として申請できます。帯同者のDependant Passの滞在期間はEP保有者の滞在期間に準じます。2026年6月1日の改訂後は、全区分のEP保有者がDependant Passの申請資格を得ました。
Dependant Passの申請はEP保有者のEP申請と同時または取得後に行います。申請には婚姻証明書や出生証明書などの身分証明書類が必要です。帯同者がマレーシアで就労する場合は、別途就労許可(Dependant Pass Special Work Pass)が必要です。
申請書類と審査の流れ
ESDへの申請は雇用主(会社)側と申請者(外国人)側の両方が書類を準備します。申請者側の主な書類は旅券(有効期間が6ヶ月以上残っているもの)・最終学歴証明書・卒業証書・職歴証明書(推薦状・在籍証明書)・履歴書です。雇用主側は会社の登記書類・最新の財務諸表・組織図・採用理由書(なぜマレーシア人ではなく外国人を採用するのかの説明)・雇用契約書が必要です。書類はすべて英語またはマレー語で提出が原則であり、日本語の書類は英文翻訳を添付します。
ESDの審査は申請後通常数週間〜数ヶ月かかります。審査中に追加書類の提出を求められる場合があります。承認通知が発行された後、外国人はビザを取得してマレーシアに入国し、EPカード(IDカード相当)を取得します。EPカードの取得後は雇用主が定める条件のもとで就労が認められます。
後継計画(Succession Plan)について
Category II・IIIのEP申請については、2027年1月1日以降に提出される申請から後継計画(Succession Plan)の提出が義務付けられます。後継計画とは、外国人が担当する職種をマレーシア人で将来的に充足するための育成計画です。申請ごとに具体的な採用・育成のスケジュールを示す書類が求められます。後継計画の未提出が更新拒否につながるリスクがあるため、採用後の早い段階から計画の立案・文書化を進めることが欠かせません。マレーシア人材の採用・育成状況についても定期的に記録を残しておくことをお勧めします。
MM2H(マレーシア・マイ・セカンドホーム)との違い
EPは就労目的のビザであり、特定の雇用主または自社法人に紐付いています。一方、MM2H(Malaysia My Second Home)は長期滞在ビザであり、就労は原則認められていません。移住して生活拠点を置く場合でも、就労・経営活動を行う場合はEPが必要です。MM2Hは資産・収入の要件を満たす個人を対象にした長期滞在制度であり、法人の設立や事業運営とは切り離して理解する必要があります。MM2Hの最新要件については入国管理局(IMI)の公式サイトをご確認ください。
マレーシアのビジネス環境
マレーシアは英語が広く通じる多民族国家であり、法律・会計・行政書類は英語での対応が可能です。クアラルンプールはアジア主要都市と比べてオフィス賃料・生活費が低水準で、香港・シンガポールからの移転を検討する企業にとってコスト面での魅力があります。首都圏以外ではマレー語の活用がビジネスに有利に働く場面もあります。外国人マネジャーを採用する場合は、マレーシア人社員との協働体制を整えることで後継計画の要件を満たしやすくなります。労働法(Employment Act)に基づいた就業規則の整備も、法人設立後の早い段階で行うことをお勧めします。
更新手続きと注意点
EPの更新申請は有効期限が切れる前に余裕を持って行う必要があります。Category I・IIは最長10年間の在留が認められますが、実際の付与期間は審査によって異なります。更新時には改めて雇用主・月給・職務内容が要件を満たしているかが確認されます。給与や職務が変更された場合は変更届(Amendment)が必要です。
EPは特定の雇用主に紐付くため、転職する際には旧EPを解除し、新しい雇用主でのEPを新規申請する必要があります。転職先でのEP申請が承認されるまでは、マレーシアでの就労が認められないことに注意してください。また、EPが取り消された場合には帯同者のDependant Passも連動して取り消しの対象となります。
税務上の注意点
マレーシアで就労するEP保有者は、マレーシアの個人所得税(Personal Income Tax)の申告義務が生じます。居住者(一定期間以上マレーシアに滞在する者)は累進課税が適用されます。日本居住者がマレーシア法人の役員を務める場合は、日本・マレーシア双方の税務申告が必要となる場合があり、二重課税の調整は日馬租税条約に基づきます。海外財産の保有状況に応じて日本の国外財産調書の提出義務も生じる場合があります。個別の税務判断は税理士にご相談ください。
当社の案内
当社(ADEG)はマレーシアの法人設立代行を承っており、EP申請の情報提供と相談受付も行っています。EP申請そのものはESDまたは認可代理人が担当しますが、法人設立の資本金設計とEP申請のスケジュール調整についてご相談いただけます。設立完了後は連携している現地の認可エージェントをご紹介することも可能です。お問い合わせはお電話(050-4560-1792、平日10:00〜19:00)またはフォームからどうぞ。費用の詳細は料金ページに掲載しています。
アジア各国との比較はアジア4拠点の比較記事をご参照ください。帯同者ビザの詳細は帯同ビザの申請ガイドをご覧ください。
マレーシアのEmployment Pass(EP)とは何ですか?
Employment Pass(EP)はマレーシアで外国人が就労するために必要なビザです。2026年6月1日以降の基準では、カテゴリIが月給RM20,000以上、カテゴリIIがRM10,000〜RM19,999、カテゴリIIIがRM5,000〜RM9,999(製造業はRM7,000)です。会社側の要件(設立資本金・事業実態など)もあるため、詳細はマレーシア入国管理局または担当者にご確認ください。
香港の起業家ビザ(投資による入境)の取得要件は何ですか?
香港入境事務処(ImmD)の「投資による入境」(Admission for Investment)は、香港に合法的に設立された会社の株主・共同経営者を対象とした在留資格です。申請は個別の裁量審査で、香港経済への貢献(投資額・事業の実行可能性・雇用創出など)が審査されます。承認は保証されておらず、要件は入境事務処の公式サイトをご確認ください。
帯同ビザの申請はできますか?
香港・マレーシアともに、就労ビザを取得した本人の配偶者・子どもを帯同するビザ制度があります。香港では「扶養家族として入境」(Dependent Visa)、マレーシアでは「依存パス(Dependent Pass)」として申請できます。申請要件・所要期間は個別の状況によって異なるため、担当者にご確認ください。
海外法人を設立すれば就労ビザは取得しやすくなりますか?
海外法人の設立は就労ビザ申請の要件の一部となる場合がありますが、それだけでビザが自動的に取得できるわけではありません。ビザ審査では事業の実態・投資額・雇用創出・申請者の背景などが総合的に判断されます。ビザの申請可否については現地の入国管理局または専門家にご確認ください。
出典
- ESD「Revised Employment Pass Salary Policy Effective 1 June 2026」(確認日 2026-10-17)https://esd.imi.gov.my/portal/latest-news/announcement/announcement-266-ep-salary-policy-2026/
- MIDA「Announcement: Implementation of New Expatriate Employment Policy」(確認日 2026-10-17)https://www.mida.gov.my/media-release/announcement-implementation-of-new-expatriate-employment-policy/
- ESD「Employment Pass」(確認日 2026-10-17)https://esd.imi.gov.my/portal/expatriates/myxpats/key-services/employment-pass/
- MIDA「FAQ – Expatriate System(2026年3月)」(確認日 2026-10-17)https://www.mida.gov.my/wp-content/uploads/2026/03/Final-FAQ-for-MIDA-Expatriate-System-EP-PVP-EP-FG-DP-as-at-16.3.2026.pdf
この記事は、公的機関が公開している情報をもとに、制度の一般的な内容を説明したものです。個別の税務の判断は税理士が行います。制度は改正されることがあるため、手続きの前に最新の情報をご確認ください。