
租税条約が海外法人設立に関係する理由
租税条約とは、二国間で締結される条約で、同一の所得に対して両国が重複して課税する「二重課税」を防ぐことを主な目的としています。海外法人を設立すると、現地国での課税と日本での課税が重なる可能性があるため、租税条約の内容を事前に把握しておく必要があります。
日本は現在、多数の国・地域と租税条約を締結しています。香港やマレーシアとも条約が結ばれており、配当・利子・使用料(ロイヤルティ)などに対する源泉税の上限税率が定められています。この上限税率は、条約がない場合に適用される国内税法の税率より低く設定されることが多く、実務上の税負担を軽減する効果があります。一方で、条約の特典を受けるためには適切な手続きと実態の整備が前提となります。
ただし、租税条約は二重課税の排除を目的としており、課税ゼロを保証するものではありません。日本居住者が海外法人を通じて所得を得る場合、日本の国内税制(外国子会社合算税制や総合課税など)との関係も別途検討が必要です。
また、租税条約の特典を受けるためには、受益者(Beneficial Owner)が適格な居住者であることが求められます。単に中間に法人を介在させるだけでは条約特典が否認されることがあります。条約の恩恵を適切に受けるためには、海外法人が実態のある事業活動を行っていることや、経営管理が現地で行われていることなどが条件となる場合があります。
日本・香港・マレーシアの主な条約税率
日本と香港の間には「所得に対する租税の二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国と中華人民共和国香港特別行政区との間の協定」(以下、日香港租税協定)があり、2010年11月9日に署名され、2011年8月14日に発効しました。源泉税への適用は2012年1月1日以後です。
日本とマレーシアの間の「租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とマレーシアとの間の条約」は1999年12月31日に発効しています。
| 所得の種類 | 日・香港協定(条件) | 日・マレーシア条約(条件) |
|---|---|---|
| 配当 | 5%(法人が10%以上保有) 10%(その他) |
5%(法人が25%以上保有) 15%(その他) |
| 利子 | 免税(政府・中央銀行等) 10%(その他) |
10% |
| 使用料(ロイヤルティ) | 5% | 10% |
上記の源泉税率は、支払地国(香港またはマレーシア)側が日本の居住者・法人に対して課せる源泉徴収税の上限です。実際に適用されるには、条約の特典を受けるための手続き(条約適用申請書の提出等)が必要な場合があります。
二重課税排除の仕組み(外国税額控除)
海外法人から日本に所得が送られてきた際、その所得がすでに現地で課税されていても、日本でも同じ所得に課税される可能性があります。この二重課税を排除する主な方法が外国税額控除です。日本で納める税額から、外国で納めた税額の一定額を控除する仕組みです。
外国税額控除には控除限度額があり、日本の税率で計算した税額を上回る分は控除できません。また、法人が子会社から受け取る配当については外国子会社配当益金不算入制度が適用される場合があります。この制度では、25%以上の株式を6ヶ月以上保有する子会社から受け取る配当の95%が益金不算入となります。
外国税額控除と益金不算入制度は目的が異なるため、どちらの制度がより有利かは所得の種類や事業の実態によって異なります。個別の判断には専門的な税務分析が必要です。
なお、外国子会社配当益金不算入制度では、外国子会社(25%以上の株式を6ヶ月以上保有)から受け取る配当等の額の95%が益金不算入となります。ただし、外国子会社合算税制の適用を受ける場合は、この制度との調整が必要になるケースがあります。法人が海外子会社から配当を受け取る場面では、益金不算入の可否と合算課税の適用関係を一体的に検討することが必要です。
恒久的施設(PE)と課税の分岐点
租税条約において、恒久的施設(Permanent Establishment、PE)は課税権の分岐点として機能します。一般に、ある国に PE を持たない外国企業のその国での事業所得は、その国では課税されないというルールが条約に規定されています。
PEとなりうるのは、支店・事務所・工場・倉庫・建設現場などです。代理人(代理PE)として現地で継続的に契約を締結する権限を持つ者も、PEを構成する場合があります。
海外法人を設立した後も、日本国内で同様の営業活動を行っていると、日本にPEが存在すると認定され、日本でも課税される可能性があります。海外法人と日本側の役割分担を明確にし、実態に即した管理体制を構築することが求められます。
外国子会社合算税制との関係
租税条約による二重課税防止のルールとは別に、外国子会社合算税制(租税特別措置法第66条の6以下)が日本側で適用される場合があります。この制度は、日本居住者が支配する低税率国・地域の海外法人の所得を、日本の株主の所得に合算して課税するものです。
合算課税の対象となる「対象外国関係会社」かどうかは、外国法人の租税負担割合(本店所在地国の税率等)などによって判定されます。租税条約は源泉税の軽減や二重課税の排除には機能しますが、日本の合算課税制度を免除するものではありません。
たとえば、日本・香港租税協定によって香港法人から受け取る配当の源泉税が5%になっても、その香港法人が外国子会社合算税制の対象「対象外国関係会社」に該当すれば、日本で法人税・所得税が課される場合があります。二つの制度の相互作用を正確に理解したうえで、適切な税務対応を取ることが求められます。
なお、合算課税の適用除外となる能動的事業法人は、事業基準・実体基準・管理支配基準・非関連者基準(または所在地国基準)の4要件をすべて満たす必要があります。この要件の充足判定は事業の実態に依存するため、税理士への相談が不可欠です。
ラブアン法人と日・マレーシア租税条約の注意点
マレーシアのラブアン島に設立するラブアン法人に、日本とマレーシアの租税条約(日・マレーシア条約)が適用されるかどうかは、条約と議定書の条文で確かめる必要があります。ラブアン法人を通じて条約上の軽減税率を使う前提で計画を立てる場合は、条文の確認を税理士に依頼してください。
この点はラブアン法人を選択する際の大きな考慮事項です。たとえば、日本の親会社がラブアン子会社から配当を受け取る場合、条約上の軽減税率(5%)は適用されず、ラブアン法人側の国内源泉徴収税率が適用されます。ただしラブアンでは配当に源泉徴収税がないため、実務上の影響が出るのは主に利子・ロイヤルティの場面です。
一方、マレーシア本土のクアラルンプール等に設立する通常のマレーシア法人(Sdn Bhd等)は、日・マレーシア条約の適用を受けます。法人の設立地をラブアン島にするかマレーシア本土にするかによって、条約適用の可否が異なるため、設立前に専門家への確認が必要です。
CRSと租税条約の情報交換
租税条約には、締結国同士が税務情報を交換する「情報交換条項」が設けられています。一方の国が要請した場合や定期的に自動で、銀行口座情報・取引情報・申告情報が共有されます。
これに加え、CRS(共通報告基準:Common Reporting Standard)により、金融口座情報が条約の枠組みとは別に自動的に交換されます。日本と香港・マレーシアはともにCRS参加国であり、互いの金融機関が保有する口座情報が毎年双方の税務当局に届けられます。
CRSの情報交換により、海外法人名義の口座を含む資産情報が日本の国税庁に通知されます。租税条約・外国子会社合算税制・CRSが連動して機能する現状では、適切な申告と税務コンプライアンスの維持が求められます。
税務専門家への相談
租税条約の適用手続き・外国税額控除の計算・外国子会社合算税制の判定は、いずれも専門的な税務知識を要します。条約の解釈は事案によって異なることがあり、税務当局との見解の相違が生じるケースもあります。また、条約の特典否認規定や主要目的テストが適用される場合もあるため、個別の判断は、日本と設立地国の両方の税制に精通した税理士にご相談ください。
ADEGでは、香港・ラブアン・マレーシアへの法人設立に関する初期相談から、各国で認可を受けた現地事業者と連携した設立手続き、設立後の会計・申告代行まで、日本語でご支援します。ご不明な点は無料相談フォームまたはお電話(050-4560-1792、平日10:00〜19:00 日本時間)にてお気軽にご連絡ください。
出典
- 国税庁「日本と各国との租税条約(一覧)」(確認日 2026-10-17)国税庁タックスアンサー
- 国税庁「日本国と香港特別行政区との間の租税協定」(確認日 2026-10-17)https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/international/tax_convention/hongkong.htm
- 国税庁「日本国とマレーシアとの間の租税条約」(確認日 2026-10-17)https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/international/tax_convention/malaysia.htm
この記事は、公的機関が公開している情報をもとに、制度の一般的な内容を説明したものです。個別の税務の判断は税理士が行います。制度は改正されることがあるため、手続きの前に最新の情報をご確認ください。