
海外法人設立後も日本の税金との関係は続く
海外に法人を設立すれば日本での課税が自動的に消えるわけではありません。日本の居住者が海外法人を保有・支配している場合、外国子会社合算税制・全世界所得課税・外国税額控除など複数の日本の税制が引き続き関係します。海外法人に関連する税務を正確に把握した上で設立・運営計画を立てることが欠かせません。
「居住者」とは、国内に住所を有するか、または現在まで継続して1年以上居所を有する個人のことです(所得税法2条1項3号)。居住者は原則として国内外すべての所得について日本で課税対象となります。海外法人を設立しても、自身が日本の居住者である限り、その法人に関連する日本の税務義務はなくなりません。
日本では個人の課税区分が3つに分けられており、それぞれ課税される所得の範囲が異なります。以下の表で各区分の課税範囲を確認してください。
| 区分 | 定義 | 課税される所得の範囲 |
|---|---|---|
| 居住者(非永住者以外) | 国内住所あり、または1年以上継続居所 | 国内外すべての所得 |
| 非永住者 | 日本国籍なし、過去10年以内の国内在住5年以下 | 国内源泉所得+国外源泉所得のうち国内払いまたは国内送金分 |
| 非居住者 | 居住者以外の個人 | 国内源泉所得のみ |
居住者の判定は形式的な住民票の登録ではなく、「生活の本拠」という客観的事実によって行われます。職業・住居・資産の所在・家族の居住地などを総合的に考慮して判定されるため、単に海外に登録住所を置くだけでは非居住者と認定されない場合があります。
外国子会社合算税制(タックスヘイブン対策税制)
外国子会社合算税制は、日本の居住者が実体のない外国法人を通じた租税回避を防ぐための制度です。日本の居住者・内国法人が発行済株式等の50%超を直接・間接に保有する外国法人は「外国関係会社」に該当し、一定の要件に該当すればその所得が日本の株主に合算して課税されます。
外国関係会社は3区分(特定外国関係会社・対象外国関係会社・部分対象外国関係会社)に整理されています。租税負担割合が20%未満の対象外国関係会社は、4つの経済活動基準(事業基準・実体基準・管理支配基準・所在地国基準)をすべて充足しない限り、所得が日本に合算されます。所在地国で実質的な事業活動を行う法人については、これらの基準を充足することで適用除外となる仕組みです。
香港法人の利得税は最高16.5%であり、この税率は外国子会社合算税制の20%基準を下回る水準です。そのため、香港子会社について経済活動基準の充足状況を慎重に確認することが必要となります。外国子会社合算税制の詳細は外国子会社合算税制をわかりやすく解説をご覧ください。
恒久的施設(PE)と外国法人の日本課税
外国法人は、日本国内に恒久的施設(Permanent Establishment:PE)を有する場合にのみ、そのPEに帰属する所得について日本での法人税が課税されます。PEがない場合、外国法人自体に日本の法人税は原則として課税されません。PEの有無は外国法人の日本課税の分岐点となります。
PEは3つの類型に分けられます。第一は事業場所型PEで、支店・事務所・工場など事業の管理を行う固定した場所のことです(固定的施設型とも呼ばれます)。第二は工事現場型PEで、建設・据付工事またはその指揮監督役務の提供が継続して1年を超えるものです。第三は代理人型PEで、国内に置く代理人等が反復して契約を締結する権限を有し、その権限を行使するものです。
海外法人を設立した後も、日本国内に事務所を置いたり、日本に居住する者が海外法人の実質的な経営判断を行ったりすると、PE認定のリスクが高まります。PE認定を受けた場合、外国法人として日本での法人税申告・納税義務が生じます。海外法人の日本での活動範囲については、設立前に専門家に確認しておくことが大切です。
外国子会社配当益金不算入制度
日本の内国法人が外国子会社から受け取る配当については、一定の要件を満たせば配当額の95%相当を益金不算入とする制度があります(法人税法23条の2)。外国子会社が現地で課税済みの所得から支払う配当を日本でも課税すると二重課税となるため、この制度で調整が行われます。
益金不算入の適用を受けるためには、外国子会社の持株割合が25%以上であること、かつその保有期間が6ヶ月以上継続していることが必要です。要件を満たせば配当の95%が益金不算入となり、残りの5%は費用対応分として益金算入されます。現地で損金算入された配当は本制度の対象外となります。また、外国子会社の損益構造も含め、事前に税理士と確認しておくことが大切です。
外国税額控除による二重課税の排除
日本の内国法人が海外で外国税を納付した場合、国外所得に対して日本で納付すべき法人税額の範囲内で、その外国税額を控除できる制度があります。国際的な二重課税を排除する目的で設けられており、外国法人税の納付が確認できる場合に適用されます。
控除限度額は「国外所得÷全世界所得×法人税額」の計算式で算出されます。控除限度額を超えた部分(超過税額)は3年間繰り越して控除することが可能です。外国子会社合算税制によって合算された所得に対して支払った外国税についても、一定の外国税額控除が認められる場合があります。計算は複雑になるため、申告前に必ず税理士に確認してください。
なお、日本の居住者が海外法人に出資する際には、対外直接投資の事後報告義務も生じることがあります。外国為替及び外国貿易法(外為法)に基づき、取引金額が一定の基準以上の場合には財務大臣(日本銀行経由)への報告が必要です。届出・報告義務も含めた手続き全体を事前に整理しておくことで、設立後の法令遵守がスムーズになります。
租税条約が二重課税を調整する仕組み
日本は多くの国・地域と租税条約を締結しており、配当・利子・使用料に対する源泉税の上限税率を定めることで二重課税を軽減しています。日本・香港租税協定(2011年8月14日発効)では、配当については議決権の10%以上を保有する法人への支払いは5%、それ以外は10%が源泉税の上限税率です。利子については一般の場合10%が上限となっています。
条約の恩典を受けるためには、受益者(Beneficial Owner)としての要件を満たすことや、必要な手続きの履行が求められます。租税条約の内容は締結国・地域によって異なり、また多国間条約(MLI)の適用によって改正されているケースもあります。条約の最新内容と適用手続きについては税理士に確認してください。
CRSによる海外口座情報の把握
CRS(Common Reporting Standard、共通報告基準)は、金融機関が非居住者の口座情報を自国の税務当局に報告し、各国当局間で自動的に情報交換する国際的な枠組みです。日本はこの枠組みに参加しており、世界各国の金融機関が保有する日本居住者の口座情報が日本の国税庁に自動的に提供される仕組みとなっています。香港は2017年1月1日からCRSを施行し、日本との情報交換を最初から実施している地域の一つです。
海外法人が海外金融機関に口座を開設している場合、その口座情報も各国当局間で共有されます。外国子会社合算税制に基づく申告が漏れていた場合でも、CRSを通じて海外での金融資産の保有状況が日本の税務当局に把握される可能性があります。外国子会社合算税制とCRSはともに国際的な租税回避への対策として機能しており、適切な税務申告を継続することが基本的な対応です。
また、年の12月31日時点で国外財産の合計額が5,000万円を超える居住者は、翌年6月30日までに国外財産調書を提出する義務があります。海外法人に対する出資持分や海外銀行口座の残高も国外財産に含まれるため、一定規模以上の海外資産を保有する場合には提出義務の確認が必要です。
専門家への相談
海外法人設立に伴う日本での税務は、外国子会社合算税制・外国子会社配当益金不算入・外国税額控除・国外財産調書の提出など、複数の制度が絡み合います。設立国・保有構造・事業内容によって適用される制度や具体的な判断が異なるため、個別の税務判断は必ず税理士にご相談ください。
ADEGでは、各国で認可を受けた現地事業者と連携し、海外法人の設立から年次の税務・会計手続きまでをサポートします。海外法人に関連する日本の税務についてのご相談は、フォームまたはお電話(050-4560-1792、平日10:00〜19:00 日本時間)にてお受けしています。
香港法人の利得税率はいくらですか?
香港の利得税率は、課税対象利益が初めてのHK$200万以下の部分に8.25%、超える部分に16.5%が適用されます(2018/19課税年度以降)。ただし香港の利得税は源泉地主義を採用しており、香港を源泉としない利益は課税対象外となる場合があります。個別の判断は税理士にご相談ください。
日本の外国子会社合算税制(タックスヘイブン対策税制)とは何ですか?
外国子会社合算税制(措置法66条の6)は、外国子会社の租税負担割合が20%未満の場合、その所得を日本の親会社の所得に合算して課税する制度です。ただし経済活動基準(事業基準・実体基準・管理支配基準・所在地国基準)を満たす場合は除外されます。具体的な適用可否は税理士にご確認ください。
香港の利得税は海外で稼いだ利益にも課税されますか?
香港の利得税は源泉地主義を採用しており、香港を源泉とする利益のみが課税対象です。事業活動の場所に基づく「オペレーションズ・テスト」によって判定されます。海外での活動から生じる利益が課税対象か否かは個別の事業状況によって異なり、税理士への確認が必要です。
ラブアン法人の税率はいくらですか?
ラブアン事業活動税法(LBATA)に基づき、トレーディング活動(貿易・サービス等)には監査済み純利益の3%、非トレーディング活動(純粋な投資保有等)には0%の税率が適用されます。ただし優遇税率の適用には実質要件(物理的な事務所・フルタイム従業員の常駐・適切な運営費用の支出)を満たす必要があります。実質要件を満たさない場合は24%の標準税率が適用されます。
マレーシアの法人税率はいくらですか?
標準の法人税率は24%です。一定の要件を満たす中小企業(Sdn. Bhd.)には段階税率が適用され、課税所得RM150,000以下が15%、RM150,001〜RM600,000が17%、超過部分が24%です(課税年度2023〜2024の確定値)。個別の適用条件は税理士にご確認ください。
CRS(共通報告基準)とは何ですか?
CRS(Common Reporting Standard / 共通報告基準)はOECDが策定した金融口座情報の自動的交換の枠組みで、各国の金融機関が非居住者の口座情報を収集し、口座保有者の居住地国の税務当局へ自動的に提供する制度です。日本では令和6年(2024年)に約275万件の情報交換が行われています。香港は2017年から、マレーシアは2018年からCRSを実施しています。
出典
- 国税庁「外国子会社合算税制に関するQ&A(平成29年度改正関係等)」(確認日 2026-10-17)https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hojin/180111/pdf/01.pdf
- 国税庁「No.2875 居住者と非居住者の区分」(確認日 2026-10-17)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2875.htm
- 国税庁「No.2883 恒久的施設(PE)」(確認日 2026-10-17)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2883.htm
- 国税庁「外国子会社から受ける配当等の益金不算入制度」(確認日 2026-10-17)https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hojin/091228/01_02.htm
- 財務省「中華人民共和国香港特別行政区との租税条約のポイント」(確認日 2026-10-17)https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/international/tax_convention/press_release/sy221109aho.htm
- 国税庁「共通報告基準(CRS)に基づく自動的情報交換」(確認日 2026-10-17)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/kokusai/crs/index.htm
この記事は、公的機関が公開している情報をもとに、制度の一般的な内容を説明したものです。個別の税務の判断は税理士が行います。制度は改正されることがあるため、手続きの前に最新の情報をご確認ください。