
香港とシンガポールはどちらもアジアを代表する国際金融都市です。日本からの海外法人設立先として両地域の比較を求める方が多くいますが、税制・設立要件・ビザの制度は異なります。費用・税制・居住要件・銀行口座審査の4つの軸で違いを整理します。
設立コストと手続きの比較
香港とシンガポールはどちらも電子申請による設立が可能です。公的手数料は比較的低水準ですが、会計・秘書役などの維持コストを含めると差が出ます。
| 項目 | 香港 | シンガポール |
|---|---|---|
| 主な会社形態 | 株式有限責任私会社 | Pte. Ltd.(私会社) |
| 設立登記料 | HK$1,545(電子申請) | SGD 300 + 名称予約 SGD 15 |
| 事業登録料(年額) | HK$2,200(1年証明書) | なし(年次申告 SGD 60) |
| 居住取締役の要件 | 不要(非居住者可) | 必須(1名以上) |
| 会社秘書役の要件 | 香港居住の自然人または登録法人 | シンガポール居住の自然人 |
| 年次報告料(期限内) | HK$105 | SGD 60 |
香港では会社登記局(Companies Registry)への電子申請で HK$1,545、事業登録局(Inland Revenue Department)への事業登録で HK$2,200(2024年4月1日〜2025年3月31日の1年証明書)が必要です。取締役は国籍・居住地を問わず就任でき、非居住の日本人だけで設立できます。
シンガポールでは会社会計規制機構(ACRA)の Bizfile+ で会社を登記します。登記料 SGD 300 と名称予約料 SGD 15 が主な費用です。ただし取締役のうち1名以上がシンガポール市民・永住権者・就労ビザ保有者である必要があります。日本から設立する場合は名義取締役(Nominee Director)サービスの利用が一般的です。
税制の違い
香港の利得税
香港は源泉地主義(Territorial Source Principle)を採用しており、香港を源泉とする利益のみが利得税(Profits Tax)の対象です。2018/19年度以降、法人の課税所得はHK$200万以下に8.25%、HK$200万超の部分に16.5%が適用される2段階税率です。関連企業グループ内では1社のみが低税率を選択できます。
海外で締結・履行された取引から生じる利益は、香港に送金されても課税されない点が特徴です。ただし2023年1月1日からは多国籍企業グループを対象に外国源泉所得免税制度(FSIE)が施行されており、特定の受動的収入には経済実質の要件が課されます。
シンガポールの法人税
シンガポールの法人税率は課税所得に対して一律17%です。新設法人は最初の3課税年度(Year of Assessment)に大幅な免除が受けられます。課税所得 SGD 10万のうち75%が免除され、次の SGD 10万のうち50%が免除されるため、スタートアップ段階は実質的な税負担を低く抑えられます。
海外源泉所得は送金ベースで課税される場合がありますが、外国源泉免税制度(Foreign-Sourced Income Exemption)の3要件を満たせば免税となります。条件は、送金元の国で実際に課税されていること、その国のヘッドライン税率が15%以上であること、税務当局が免税を認めることの3点です。
ビザと居住要件
香港では起業家ビザ(General Employment Policy の起業家枠)が利用できます。事業計画・財務予測・現地雇用創出を審査し、初回36ヶ月の滞在許可が付与されます。処理時間は書類完備から通常4週間です。入境事務処理局(Immigration Department)の承認は完全に裁量的であり、結果を保証するものではありません。
シンガポールでは EntrePass(起業家向け)と Employment Pass(就労者向け)の2つが主な選択肢です。EntrePass はベンチャー支援・革新技術などの要件があり、Employment Pass は最低月給 SGD 5,600 以上(2025年以降)とCOMPASSスコアの基準を満たす必要があります。
銀行口座の開設審査
香港では香港金融管理局(HKMA)がリスクベースの顧客デューデリジェンス(CDD)を銀行に義務付けています。HKMAは銀行が正当な理由なく申請を拒否することを禁止していますが、口座開設の可否は各行の審査基準によって異なります。審査では会社の事業内容・実質的支配者(SCR:重要管理者登記制度)・資金源・取引先の具体的な説明が求められます。取締役の国籍・居住地が香港以外の場合、補完的な書類の提出を求められることがあります。
シンガポールではシンガポール金融管理局(MAS)の AML/CFT 規則のもと、パスポート・設立証書・実質的支配者情報の提出が必要です。非居住者の場合は対面での手続きを求める銀行が多い状況です。いずれの地域でも、口座開設の可否を判断するのは各行であり、申請前に事業計画の英語説明資料を用意しておくことをお勧めします。
日本との租税条約
日本と香港の間には租税条約(日本・香港租税協定)が2011年8月14日に発効しており、配当・利子・使用料の源泉徴収税率について定めが設けられています。具体的な税率は財務省の公式資料でご確認いただくか、税理士にお問い合わせください。
日本とシンガポールの間にも租税条約があり、配当・利子・使用料の源泉徴収税率について定めが設けられています。条約の適用要件や特典制限条項(LOB条項)については、案件ごとに税理士に確認する必要があります。
日本の税制との関係
日本居住者が香港またはシンガポールに法人を設立する場合、日本の外国子会社合算税制(タックスヘイブン対策税制)の適用を確認する必要があります。この制度は、実効税率が20%未満の外国子会社の所得を、日本の親会社・株主の所得に合算して課税する仕組みです。
香港の利得税率は16.5%(HK$200万超の部分)または8.25%(以下)で、20%の基準を下回る可能性があります。一方シンガポールの法人税率は17%であり、スタートアップ免除適用後の実効税率によっては20%を下回ることもあります。経済活動基準(事業基準・実体基準・管理支配基準・所在地国基準)をすべて満たす場合は会社単位の合算課税から除外されますが、要件の充足は個別の事業実態に依存します。
また、CRS(共通報告基準)に基づき、香港は2017年から、シンガポールは2018年から日本を含む各国と金融口座情報を自動交換しています。海外口座の情報は日本の国税庁に届いています。日本居住者が5,000万円を超える国外財産を保有する場合は国外財産調書の提出義務も生じます。個別の税務判断は必ず税理士にご相談ください。
法定記帳と年次申告の義務
香港では会社法(Companies Ordinance Cap.622)により、会計帳簿は7年間の保存が義務付けられています。年次報告書(Annual Return)は設立記念日から42日以内に提出が必要で、期限内の提出料はHK$105です。内国歳入条例(Inland Revenue Ordinance)第51C条により、事業記録も7年間の保存が求められます。内国歳入局(IRD)は設立日から約18ヶ月後に利得税申告書(Tax Return)を送付します。初回申告後は毎年申告を行います。
シンガポールでは法人は毎年株主総会(AGM)を開催し、年次報告書を ACRA に提出します。会計基準はシンガポール財務報告基準(SFRS)に準拠します。監査については一定要件を満たす免除対象会社を除き、認定監査法人による監査が義務です。会計帳簿の保存期間は5年間とされています。
どちらを選ぶか
非居住のまま法人を運営したい場合や、設立コストを抑えたい場合は香港が選択肢に入ります。現地に拠点を設けて金融・テック分野の事業を展開するなら、エコシステムが充実したシンガポールを検討できます。製造業・物流・貿易の拠点を探している場合は、マレーシアやラブアンも比較対象になります。
会社形態の選択・取締役要件・税務ポジションを総合的に判断するには、事業計画の具体的な内容をもとにした専門家との協議が欠かせません。当社(ADEG)は香港・マレーシア・ラブアンの設立を支援しています。シンガポールへの進出については情報提供のうえで相談を受け付けています。まずはお気軽にお問い合わせください。詳しいサービス内容は海外法人設立の支援のページに掲載しています。
香港の設立手順の詳細は香港の法人設立の流れをご参照ください。税務の概要は香港の利得税解説、料金案内は料金ページをご確認ください。
香港法人の利得税率はいくらですか?
香港の利得税率は、課税対象利益が初めてのHK$200万以下の部分に8.25%、超える部分に16.5%が適用されます(2018/19課税年度以降)。ただし香港の利得税は源泉地主義を採用しており、香港を源泉としない利益は課税対象外となる場合があります。個別の判断は税理士にご相談ください。
香港法人に必要な取締役の要件は何ですか?
香港の株式有限私会社には、最低1名の取締役(自然人)が必要です。国籍・居住地の制限はなく、日本居住者でも取締役になれます。また、会社秘書役(Company Secretary)の任命が義務で、唯一の取締役が秘書役を兼務することは禁止されています。
香港の年次報告書(Annual Return)の提出期限はいつですか?
私会社の場合、設立記念日から42日以内に会社登記局へ年次報告書を提出する必要があります。期限内(42日以内)の提出手数料はHK$105で、9ヶ月以上遅延した場合はHK$3,480の延滞手数料が発生します。
香港の会社秘書役は何をする人ですか?
会社秘書役(Company Secretary)は、会社登記局への申告書類の準備・提出、取締役会・株主総会の議事録管理、法定登録簿の維持管理などの法定業務を担う役職です。香港の全私会社に1名が必要で、香港に通常居住する自然人または香港に事業所を持つ法人が任命できます。
香港法人の事業登録料はいくらですか?
2024年4月1日から2025年3月31日までの適用料金は、1年証明書でHK$2,200、3年証明書でHK$5,870です。2025/26年度以降の料金は内国歳入局(IRD)の公式サイトでご確認ください。
出典
- 会社登記局(Companies Registry)「手数料」(確認日 2026-10-17)https://www.cr.gov.hk/en/services/fees.htm
- 香港内国歳入局(IRD)「事業登録料改定」(確認日 2026-10-17)https://ird.gov.hk/eng/ppr/archives/24030602.htm
- 香港内国歳入局(IRD)「2段階利得税 FAQ」(確認日 2026-10-17)https://www.ird.gov.hk/eng/faq/2tr.htm
- 香港内国歳入局(IRD)「領土主義課税ガイド」(確認日 2026-10-17)https://www.ird.gov.hk/eng/paf/bus_pft_tsp.htm
- ACRA「手数料」(確認日 2026-10-17)https://www.acra.gov.sg/manage/companies/service-transaction-fees/
- シンガポール内国歳入庁(IRAS)「法人税率・免除制度」(確認日 2026-10-17)https://www.iras.gov.sg/taxes/corporate-income-tax/basics-of-corporate-income-tax/corporate-income-tax-rate-rebates-and-tax-exemption-schemes
- シンガポール人材省(MOM)「Employment Pass の資格」(確認日 2026-10-17)https://www.mom.gov.sg/passes-and-permits/employment-pass/eligibility
- HKMA「銀行の禁止事項」(確認日 2026-10-17)https://www.hkma.gov.hk/eng/smart-consumers/account-opening/banks-should-not/
- 国税庁「外国子会社合算税制 Q&A(平成29年度改正)」(確認日 2026-10-17)https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hojin/180111/pdf/01.pdf
この記事は、公的機関が公開している情報をもとに、制度の一般的な内容を説明したものです。個別の税務の判断は税理士が行います。制度は改正されることがあるため、手続きの前に最新の情報をご確認ください。